英国のフィンドホーン・エコビレッジコミュニティ体験
イギリスの北部、スコットランドのハイランド州に、フィンドホーンという人口約千人の小さな村があります。この小さな村にあるザ・パークと呼ばれる敷地で「フィンドホーン財団」が運営するエコビレッジ・コミュニティには、世界から年に約70カ国、14000人の短期・長期の滞在ゲストが訪れます。ここは2012年に創立50周年を迎え、世界で今でも継続する最も古いエコビレッジ・コミュニティの一つです。
私は、世界中のエコビレッジに関心の高い人たちを引きつけるコミュニティの魅力を知りたい、そしてコミュニティが分断されず発展し継続してきた成功の秘訣を学びたいと思い、2014年夏に1ヶ月間のコミュニティ体験研修プログラムに参加しました。
私が体験してきたサステナブルなコミュニティのしくみをご紹介します。
このコミュニティは、失業し路頭に迷いこの地にたどり着いた3人の盟友と家族が住みついた一軒のトレーラー・ハウスから始まりました。彼らは野菜作りには適さない海岸近くの砂の多い土壌でオーガニックの畑作りを始め、スピリチュアルな手法で巨大な野菜を育てた、ということで世界に知られるようになりました。今では約12ha の敷地に、約130人の住人と、ゲストなどの滞在者を含め、約300人〜500人が暮らしています。財団はフィンドホーン・カレッジを運営し、年間を通して自己啓発、ホリスティック、英語、コミュニティ体験プログラムなど様々な教育研修やセミナーなどを提供し、世界で先駆的なエココミュニティ創造、実践の場となっています。また、国連から正式に認可されているNGO団体として、エコビレッジを学ぶ専門家のトレーニングセンターとしての役割も果たしています。Wikipediaによると、このエリアで少なくとも40以上のコミュニティ・ビジネスと300の仕事をうみだし、スコットランドのハイランド地方で年500万ポンド(10億円近く)の経済的インパクトを与えているとのことです。
人間活動が環境に与える負荷を表す指標のひとつであるエコロジカル・フットプリントは、2007年4月のフィンドホーン財団のプレスリリースによると、コミュニティ内の数値は 2.56ghaで、イギリス国内5.4ghaの半分に抑えられています。ビーチに近い大自然あふれるザ・パーク敷地内では、太陽光や風力、バイオマスなどの自然エネルギーが使われ、生活排水をバイオの力で処理し、エコ建築や地域通貨、カーシェア、無農薬有機栽培の畑など、循環型社会のモデルとも言えるしくみを滞在プログラムでの生活を通し、”実体験”をすることができます。
大自然に囲まれた敷地内の施設としては、ゲストが滞在するゲストハウスや研修施設のほか、コミュニティ・センターと呼ばれゲストや住人の交流の場となるオーガニックの食堂もある施設や、食品や土産物を扱うフェニックス・ショップ、コンサート・シンポジウム・大勢でのミーティング・ダンスイベントなどに使われるユニバーサル・ホール、住人やゲストの憩いの場となるブルー・カフェ、無農薬無化学肥料で営まれる農園、住人の居住区、風車やバイオマスのエネルギー発電施設、サンクチュアリと呼ばれる祈りの施設、財団や他のNGO等のオフィスなどがあります。
滞在者の多くは、昼食と夕食が用意される食堂の料理、オーガニック農園、各住居のメンテナンスの大きく3つのチームのいずれかに入って仕事をします。プログラムに参加し、一定期間自己負担をしてゲストとして働き、財団に認められた場合には、ここで有償スタッフとして働くことができるしくみです。(住み込みで約200ポンド、敷地外居住者で約800ポンド。一部は後述する地域通貨”Eko”で支払い。)
まず一つ目に、食や有機物の循環について。
ここのオーガニック農園で作られた野菜は、食堂で提供されます。食堂はバイキング方式で、卵はでますが、基本的に肉・魚は出ません。ただし、施設内のショップで肉を購入し、自分で調理をしたり、外食のために外出したりすることは自由で拘束はされません。ここで食事をするためには事前に利用申請が必要で、過不足がないように量を調節されています。施設内の農園の野菜だけで足りない分は、地産地消で地元のオーガニック農園から購入しているそうです。
食堂で出た食品残さは、堆肥にされ畑に戻されます。農園の近くには、おがくずの分解力を利用した無臭のコンポストトイレがあります。
2つ目に、エネルギーの循環について。
ここには4基の大型風車があり、約800kWの発電能力がある発電所が運営されています。この電力の約50%は敷地内の施設に送られ、残りは敷地外の送電線に送られ売電されています。天候に恵まれた日には、敷地の100%の電力を賄うことができます。フィンドホーンは北緯57度付近に位置し、私が訪れた9月でも朝夕や雨の日は冷え込む日が多かったです。ここでの室内暖房やシャワーに使われる温水と温熱は、バイオマス発電で熱され、ボイラーを通して各施設や住居に送られています。バイオマス発電の燃料のウッドチップも地産地消で、隣のフォレスという街で製造されています。施設内の多くの建物の屋根は、植物が育つグリーンルーフやソーラーパネルが設置されています。
3つ目に、水の循環について。
敷地内の台所や風呂・トイレから排出される生活排水は、リビング・マシーンと呼ばれる浄水システムで処理されます。
下水の浄化の段階によって異なる植物を使い、植物の根に繁殖するバクテリアなどの微生物が汚水の処理を行っています。
このシステムは、1日最大500人分3トンの下水を浄化することができます。微生物の働きを阻害しないように、施設内で使用するあらゆる洗剤は、全て「BIO」や「ECO」と表示された生物分解できる環境にやさしい洗剤に限られており、ゲストには無料で提供されています。
4つ目に、物の循環について。
施設内には、樽で使用されていた木を再利用したエコハウスや、石を積み上げて建てられた建物があります。また「ブティック」と呼ばれる無人の小屋には、ゲストや住人が不要になった衣服や靴、子どものおもちゃや本などが整頓されて置かれており、無料で誰でも物を持ち込んだり持ち帰ったりすることができます。住人や長期滞在者の間でカーシェアも行われ、約50人で6、7台の車を共有し、月極の基本料金と使用時間・使用距離に応じて運営されています。
5つ目に、人の循環について。
ここにはスタッフや短期、中期、長期の研修滞在者の他に、スタッフや住人、アフェリエイト・ビジネスに関わる人、コンサートなどのイベントや施設の見学で訪れたビジター、近隣の住人など、さまざまな属性の人たちがいました。国籍は、私が話しただけでも、イギリス人以外に、ブラジル・ドイツ・フランス・イタリア・ポ−ランド・アメリカ・スロベニア・イスラエル・インド・タイなどさまざま。また職業も、医者・助産師・歯医者・水泳やヨガのインストラクター・国家公務員・弁護士・会社員・リタイアした人・ジャーナリスト・活動家・建築家・学生・別のエコビレッジのスタッフ・ライターなどさまざま。
さまざまな人々がここで交流し、それぞれがここでの体験を自分の国に持ち帰り、自分の暮らしの中で新しいステップを踏み出そうとしていました。
最後に、お金の循環について。
2001年に地域コミュニティ事業を支援する基金「Ekopia」が設立され、2002年より、”Eko”と呼ばれる地域通貨を発行し、運用が始まっています。1Eko = 1ポンドとして換算し、敷地内のカフェやショップの他、敷地外の村のパブで使える店もある。Ekoには使用期限があります。現在は約250人のメンバーが出資し、約100万ポンド(約2億円)の資金が運用されています。風車の新設やショップ運営などのプロジェクトや有償スタッフの給与の一部をEkoで運用することによって、コミュニティ運営や拡大を低コスト・低利子で運用することができ、ローカルビジネスの活性化と雇用創出にもつながっています。
以上、サステナブルなコミュニティのしくみについて簡単に紹介しましたが、ここでの1ヶ月の体験を通して一番私が学んだものは、上記に述べたしくみの素晴らしさもさることながら、それ以上に、平和で持続可能な社会を創ろうとしている人たちが世界中にいることを知り、友人になり、平和で循環型のコミュニティで暮らす醍醐味を肌で感じられたことかもしれません。今後は、少しでも自分自身が実践者となれるように、日々の暮らしをシフトしていきたいと思っています。
(参考資料)
Findhorn Foundation HP:http://www.findhorn.org
Ekopia Resource Exchange Ltd HP:http://www.ekopia.org.uk